【開催レポート】浜松と金沢、二都市の経営者が語る!地方×中小企業の組織変革のリアル

『浜松と金沢、二都市の経営者が語る!地方×中小企業の組織変革のリアル』オンラインパネルトークの様子。
写真左から、沢渡あまね、株式会社山岸製作所 代表取締役 山岸晋作 氏、三光製作株式会社 山岸洋一 氏

2021年3月9日、株式会社山岸製作所 代表取締役 山岸晋作氏(金沢市)、三光製作株式会社 代表取締役社長 山岸洋一氏(浜松市)をお呼びして、組織変革への取り組みをお聞きし、組織変革の専門家である沢渡あまねを交えたパネルトークを行いました。

<タイムスケジュール>
15:00~15:05 オープニング

15:05~15:20 キーノートプレゼン
 株式会社なないろのはな 取締役・浜松ワークスタイルLab責任者 沢渡 あまね

15:20~15:50 事例紹介①
 株式会社山岸製作所 代表取締役 山岸 晋作 氏

15:50~16:20 事例紹介②
 三光製作株式会社 代表取締役社長 山岸 洋一 氏

16:30~17:20 パネルトーク
【パネラー】
  株式会社山岸製作所 代表取締役 山岸 晋作 氏
  三光製作株式会社 代表取締役社長 山岸 洋一 氏
【モデレーター】
  株式会社なないろのはな 取締役・浜松ワークスタイルLab責任者 沢渡 あまね 氏 17:20~17:30 Q&Aセッション&クロージング

◆オープニング

Co-startup Space & Community FUSE(以下F U S E)コミュニティビルダー辻村 昌樹氏によるF U SE紹介。

F U S Eは、浜松いわた信用金庫(浜松市)が運営する施設。学生や社会人、起業家、企業を目指す人、国内外の投資家、研究者、大手企業の社員が集まる“金融機関によるイノベーションハブ拠点”として、地域の起爆材となる産業育成を目指している。

◇F U S Eの目指すこと
1. 地域を持続的に発展させるためのエコシステムを作ること
2.既存中小事業者にイノベーションを起こすこと(DX、マインドセット)
3.地域内(&金庫内)でイノベーティブな人材を育成し、意識を改革すること(ITリテラシー、マインドセット)

FUSE

地域に合った、浜松ならではのエコシステムを作り、イノベーションを起こす場にしたい。また、イノベーティブな人材を育てる場にしたいと語る辻村昌樹氏。

辻村昌樹氏(FUSE コミュニティビルダー)

FUSEは、浜松市の中心街にある商業施設“ザザシティ浜松”の地下1階にあります。2000平米と、この種類の施設では日本最大の規模。

ラウンジは、集まった人が交流する場。

コワーキングスペース。

ファブリケーション(製作、製造)スペースには、3Dプリンターやレーザーカッターなどを備え、”アイデアを形にする場所”を提供します。

イベントスペース。

トライアルキッチンやシェアオフィスもあります。

興味のある方は、ぜひFUSEへお立ち寄りください。

◆キーノートプレゼン
沢渡あまね

これまで、上司の指示に従ってさえいれば答えを出せた時代であった。しかし、不確実性が高く変化の激しいこれからの時代においては、上司やベテランが答えを持っているとは限らない。組織の中に答えがあるとも限らない。部分的にでも(職種単位、あるいはコミュニケーションの仕方など)オープン型のやり方に変えていく必要があると沢渡氏は主張する。

統制型/オープン型マネジメントの行動様式や制度の比較表

さらに、昨今のコロナ禍により環境は激変し、これに対応した大都市と地方都市の格差、変化に敏感な企業と鈍感な企業の格差が広がり始めており、人材獲得力の格差、ひいては事業継続性の格差につながると沢渡氏は警鐘を鳴らす。

広がる2つの格差

こと地方都市においては、以下の問題地図に示されるような環境が悪気なく温存されがちであり、それが地域企業の健全な成長と発展を妨げる。

地方都市の問題地図

一方、地方都市の中小企業においても現状に危機感を持ち、新たな取り組みにチャレンジし、組織を変革へと導いている経営者がいる。

◆事例紹介(1)
株式会社山岸製作所 代表取締役 山岸 晋作 氏

株式会社山岸製作所(金沢市)は、昭和11年創業の老舗企業。現在の事業内容は、家具インテリアの販売、オフィスデザイン、ワークスタイルのアドバイスである。 同社の過去の姿はものづくり中心のビジネスモデルであった。

利益を出せない状態が続き、社長就任後は製造部門の整理、工場の閉鎖に向き合うところから始まったと山岸晋作氏は振り返る。多額の累積債務を解消するため、物販事業の立て直しに着手した。物販事業を輝かせなければならなかった。このとき、「なぜこの会社が存在しているのか」、「なぜ金沢の地にこの会社が存続しているのか」に立ち戻った。創業の歴史や計画をひもとき、「山岸製作所のDNAは『進取の精神』」であると気づいた。人の真似ではない、豊かさを一番にこの地にもたらしてきたと。

そこから、物販事業のビジネスモデルを見直した。強豪多数で競走過多の『訪問営業』ビジネスモデルに限界を感じ、北陸にない「オフィス家具を来て・見て・触れる」場所を作ろうと考えた。

プロジェクトチームを立ち上げ推進するうちに、「モノ売りからコト売りにならなければならない」と気づいた。「『机・イスを売る会社』ではなく、『新しい働き方』を売る会社になろう」と考えた。ここで、「北陸の中小企業向けに、新しい働き方(家具ではなく、効率的な働き方やI Tを利用した働き方)を自分たちのオフィスで見せる」ビジネスモデルを創り上げた。

そして、企画構想から8ヶ月後、働き方改革が見えるオフィスショールームL’S C E NA(リシェーナ)をオープン。

同じオフィスとは思えない変化を遂げた。

この変化の根底にあるのは『コミュニケーション』の問題であったと語る山岸晋作氏。職場の風通しの悪さを解決するため、フリーアドレス(固定のデスクを持たない)のオフィスを作ることから始め、「フリーアドレスなら、ノートパソコンがいる」「どこでも働けるようにするには、ファイル共有もクラウドで」と、一つ一つツールを導入していったといいます。承認機能を導入するまでは7ヶ月半、以降は数年をかけて試しながら、働き方を変化させていきました。

すると、コロナ禍においてもテレワークは自然に行えたといいます。

山岸製作所の営業・外回り担当は、いつでもどこでも会社と同じ環境で働けるようになりました。

オフィス改革によって、企業価値が向上したと山岸晋作氏は語ります。営業力、採用力、収益性等の変化が数値で見られます。債務が累積していた経営状態から、連続黒字の達成へ。

最後に、「小さい企業だからできない」「地方だからできない」つい出てしまう言い訳を逆手に取り、メリットとして取り組もう。中小企業は、小さいからこそ変化しやすく、大きな影響を与えられるのではないか。との力強いメッセージで締め括りました。

◆事例紹介(2)
三光製作株式会社 代表取締役社長 山岸 洋一 氏

三光製作株式会社(浜松市)は、昭和28年創業の老舗企業。事業内容は、金属・樹脂の表面処理加工である。

組織の変革というより、変わろうともがいている最中と語る山岸洋一氏。

製造業のまち浜松では、実直に働いていれば安定していた。しかし、変化の起点となったのは2008年のリーマンショック後に続いた大幅な売り上げダウンであると振り返ります。それまでのやり方を変えざるを得なくなり、「選択と集中」から「探索と分散」へ目を向けます。『量産/中品種/少顧客』から、『1ヶ〜量産/多品種/多顧客・他分野』へ舵を切ったのがこの時期です。

ここからは、製造業の常識を超えた様々な取り組みを一部ご紹介します。

a)海外進出
これまでの量産ノウハウを活かし、ベトナムに進出。

b)自社商品の開発
抗菌富士

d)ダイバーシティ・女性活躍
製造業でありながら、営業担当はほとんど女性。
未来型ワーク企業(株)N O K I O Oサイトより

f)ロボット活躍
きつい仕事、危ない仕事をロボットに任せ、人はより人間らしい仕事へ。

g)カフェのような食堂

i)デジタルマーケティング

コロナ禍では訪問営業や展示会を行えなかったが、2020年も多くの新規顧客を獲得できたこと、また会社やサービスを「知っていた」お客様が増えていること。これは、デジタルマーケティングの成果といえるでしょう。

「デジタル」は、今後もビジネスの重要なファクターになる。クラウドサービスは、初期コストが小さく、合わなければやめることもできる。「中小企業にとって武器になる」と語る山岸洋一氏。

これからも、まちこうばをデザインし直すプロジェクトを推進する、と締め括りました。

◆パネルトーク

ここからは沢渡氏のモデレートによるパネルトーク。

以下、ポイントとなる部分を抜粋して掲載します。 二人の山岸社長のお話を聞き、統制型とオープン型のいい関係を築けていると所感を述べる沢渡氏。「社長がやると言ったらやる」(社長が背中を見せなければ結局現場は変わらない)、しかし議論はオープンにする、現場発のチャレンジを生み出す。このサイクルが重要だと分かります。

◇テーマ1

「固定観念」を取り払うために、どうしたらよいか?ご自身が「固定観念」から解放されたきっかけは?

山岸晋作氏:
「製作所」と社名にあるように、「家具を作ること」が最初のビジネスであった。しかし債務超過を解消するために、「何が大切か」考え、「会社ののれんを守ること」と思い至った。会社ののれんを守るために変えていいこと、変えてはいけないことは何か。

変えてはいけないことは、『新しい豊かさを金沢にもたらすこと』だった。これを守れば、他に何を変えてもよいのではないかと考えた。昭和11年に木工の家具を作ることは、当時先進的だった。「新しいビジネスで豊かな社会をつくるために、インテリアを大事にしたい、インテリアで金沢を豊かにしたい」という先代の思いが、形を変えただけではないか。家具という「モノ」から、新しい働き方やITを使った働き方などの「コト」へ、形が変わっただけではないか。

沢渡あまね:
晋作社長のプレゼンテーションにあったように、『進取の精神』が山岸製作所のD N Aであり、家具をつくることではなく、家具あるいはインテリアを通じて、人々を幸せにするということと感じました。企業の存在価値、経営理念や「ビジョン・ミッション・バリュー」に向き合い、変えてはいけないことと、変えたほうがいいものを正しく議論してチャレンジすることがどんな企業にも求められていると思います。

山岸晋作氏:
「風土」は「土」と「風」と書くが、風の部分は変わってもいいところ、土は変わってはいけないところだと思っている。土の部分で変えてはいけないところ、風の部分で変えてもいいところを自分なりに持つことが大事なことだと思う。それが、文化や企業が存続する価値につながっていくと思う。

山岸洋一氏:
「めっき工場はこうでなければならない」といった固定観念から解放されたと思ったのは、「他人は変えられないが、自分と未来は変えられる」と知ったとき。「馬を水辺に連れていくことはできるけれど、水を飲ませることはできない」。誰かに期待して待っていても始まらない。他人ではなく、自分の固定観念を破ることにフォーカスすると、世界が変わる。

沢渡あまね:
両山岸社長は、「外」を経験されていますよね。晋作社長は外資系企業に、洋一社長は関東の大手製造業にそれぞれ一度は勤められている。これまで様々な企業で、「社長は外の風に触れているけれど、社員は外を見ていない」、「社員が社長の温度感に着いていけない」。「外を知らないがゆえに悪気なく、慣れた不便を正当化し、会社が変われない」例を見ています。社長が外の風に触れ、違和感や、慣れた不便に気づく。次に社内のナンバー2が、そして現場の人たちが外を知る。本セミナーのようなオンラインセミナーでもいい。外の風を経験することが大切と感じる。

◇テーマ2
「変わる苦しみ」
「生みの苦しみ」
変わること、新しいチャレンジに伴う苦労とどう向き合ってきたか?

山岸洋一氏:
経営においては、答えのない課題に向き合うことが多い。結果が出るまで時間のかかるものもある。何かを変えるときは、その目的について社員とよく景色合わせをする。時間のかかるものは、時間軸まで意識を合わせるようにしている。

山岸晋作氏:
苦しみにはネガティブな苦しみとポジティブな苦しみがあり、
ネガティブな苦しみは「与えられたものに対する不平・不満」、
ポジティブな苦しみは「自らが選んだ選択肢で生じる苦しみ」と考えている。

経営者の仕事は、「決めること」。決めるまでは、「D Xもいいな、デジタルもいいな」とワクワクするが、決めた途端に、苦しみが始まる。結果を出さなければいけない、プレッシャーもある。苦しい。つまり、「ワクワク」と「苦しみ」は表裏一体。
経営者は苦しいが、自分が決めたことを進めているから苦しい、その裏側には必ずワクワクがある。それに向かっている、前を向いているからこそ苦しいのだと思うようにしている。

◇テーマ3:
「変わる喜び」
1)社員のポジティブな変化
2)社長自身のポジティブな変化
3)求められるスキルやマインド

山岸晋作氏:
1)社員は、会社を自慢に思ってくれるようになった。社員が会社をポジティブに見てくれているのは大切なことだと思う。

沢渡あまね:
晋作社長、そうはいっても、業態変更するとき社内から抵抗はあったと思うのですがそこはいかがですか。

山岸晋作氏:
ビジネスモデルを変えていくという点ではあまり難しくはなかった。社員には、自分たちが業界の先頭に立つんだと旗印を上げ、自分たちがこの業界を変えていくんだ、自分たちがこの金沢を変えていくんだというマインドになってもらった。自分たちがやらなければいけない、山岸製作所がその役割を担うんだというのは、毎晩のようにプロジェクトメンバーで話していた。

沢渡あまね:
中からビジョンニングして火をつけていったということですね。

山岸晋作氏:
2)求められるスキルやマインドは、「結果にコミットすること」。変わるだけでは自己満足で、結果を出す、『結果から逃げない』、そこに向き合わないと、変わる喜びもないし、人のせいにしないで「自分が変わらなかったら誰が変わるんだ」と結果を求め、結果が出たらまた次のステージを求める。そのようなマインドやスキルが大切だと思う。

山岸洋一氏:
1)経済成長を続けるベトナムでは、着る物が変わったり、車を買ったり家を建てたり、変化が分かりやすい。一方日本は、物質的な変化では測れない。「仲間と一緒にこの仕事ができてよかった」と思ってもらえるように様々な施策を施しているが、これも十人十色で、正解は一つではない。中小企業だから、社員と経営が一対一で向かい合えるのはよい点。社員に対するBtoCに取り組んでいるイメージ。

沢渡あまね:
三光製作様は(もちろん山岸製作所様も)、デジタルに向き合うことで社内・社外にポジティブな変化が生まれていると感じている。インサイドセールスの効果により、コロナ禍でも県外のお客様が増えたり、社員も新しいやり方を取り入れることの重要性を理解している。

◇テーマ4:
全国の社長に一言!

山岸晋作氏:
地方の会社を変えられるのは、地方の会社だけ。「地方だから」「小さいから」という言い訳を特徴に変えて、地方の特色を武器にして、地方を変えていく。日本企業のうち96%が中小企業といいますから、地方が変われば、日本が変わっていく。地方にいる我々が地方に対して目を向け、お力添えをして皆で変わっていく。「自分たちだからこそできる」ことはたくさんある。それを見つけて、磨いて、地方をよくしていきましょう。

山岸洋一氏:
社長や管理職、上下関係なく、地域・業種を超えてつながり、価値を出していきましょう。

セミナーの内容は以上となります。激動の現代に向き合う勇気をもらえるような講演でした。
参加者の皆様からアンケートでいただいたコメントの一部をご紹介します。
・貴重な事例を話していただき、勇気をもらった
・経営だけでなく、行政や教育においても共感できる内容だった
・条件が整ったら、リアルでも開催してほしい。金沢でも開催してほしい

・オンライン・月額固定・変革顧問&学び合いサービスのご紹介
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